とてもショッキングなお話ですが、医学部の学生の薬理学の教科書を見ますと、 抗癌剤の項が出てきます。開発されてきた古い順に抗癌剤が列挙されていますが、 その一番初めにある、要するに、世界で初めて開発され、製薬化された抗癌剤が『ナイトロジェンマスタード』と云う名前で文頭に出てきます。
このナイトロジェンマスタードというのは、私が小学校の時から頭に残っており、 医学部の本科の一回生で、この薬理学の教科書のトップで見た時に、既に小さい時から 記憶にあった名前でした。
毒ガスは、第一次世界大戦では盛んに使われ、その残虐性から、その後、禁止されました。 しかしながら、開発は別で、第二次世界大戦の最中にも、各国で続々と開発が進められていたのです。
アメリカの政府も本腰を入れて、国を挙げて毒ガスの開発に取り組み、エール大学の ギルマン教授を毒ガス研究班の班長にして、毒ガスの研究開発を進めました。
ところが、このギルマン教授は、癌の研究家で、首のリンパが癌で腫れ上がった 悪性リンパ腫のネズミを沢山飼っていました。ある日、ギルマン教授がネズミ小屋に行きましたら、 この悪性リンパ腫のネズミの癌が非常に小さくなっていて、びっくりしたのです。
原因を調べてみると、毒ガス研究塔の毒ガスが、ネズミ小屋に流れ込んでいたのです。
それを知ったギルマン教授は、「癌に効くのは、この毒ガスのナイトロジェンマスタードだ!」と いうことで、世界のトップを切って、この毒ガスが抗癌剤として使用されるようになり、 今でも使われており、歴史的に一番古いので、日本中の医学生の教科書に、抗癌剤の第一号として 記載されているわけです。このお話で、私が今まで皆さんに訴えてきた抗癌剤の虚しさ、 恐ろしさが判っていただけると思います。