免疫抑制剤の問題ですが、本項は主に抗癌剤とステロイドについて 焦点を合わせて説明して来ましたので、詳しく深入りすると私の主張したい ポイントがぼけてしまいますので簡単に記しておきます。
40年ほど前から臓器移植が本格的に始まりました。
元来人間の体の中には、 黴菌、カビ、ウィルスが体内に入ってきて放置しておくと体が黴菌、 カビに占領されてしまいますので、それを防ぐために血液中にリンパ球などが存在しますが、このリンパ球の 中でT細胞とNK細胞という免疫細胞があります。
これは、侵入して 来たカビ、黴菌、ウィルスを叩き殺して自分を黴菌、カビ、ウィルス、癌から 守ってくれる大切な細胞です。
臓器移植というのは、他人の臓器(例えば肝不全の末期の患者さんに他人の肝臓)を もらって、自分の駄目になった臓器と取り替えるわけです。 この場合、他人の肝臓をもらって来ますが、十分な検査をし、血液型、HLAなど 細かいドナーとの組織適合性の検査をして、できるだけ一致した臓器を 持ってきて移植するわけです。しかし、いくら組織適合性をできるだけあわせても、 やはり他人のものは他人の臓器です。
人間の体にとっては黴菌、カビ、ウィルスなどのように自分にとっては異物です。 そこで、この黴菌、カビ、ウィルス、癌から体を守るT細胞、NK細胞が しっかりしていると、移植した臓器を叩き落としてしまいます。 そうしますと移植された患者さんは死んでしまいます。
この移植臓器を生かさないといけないので、黴菌、カビ、癌などを叩いて 自分を守ってくれるT細胞やNK細胞などの免疫細胞を叩かないと 生きていけません。この免疫細胞を叩いてくれるのが免疫抑制剤です。
従って、この免疫抑制剤を長期ずっと内服せねばならない、こういう臓器移植を した患者さんは、黴菌に対する抵抗力がなくなり、10%くらいは重篤な肺炎を 合併し、また、癌に対する抵抗力がなくなります。
10年ほど前にアメリカの学者が、この免疫抑制剤(プロトピック)の内服を続けている 千人の肝臓移植した患者を7年間追跡調査した結果、7~10%の内臓癌、 悪性リンパ腫が発生しているという結果を出して報告しました。
(Transplantation, 66: 1193-1200, 1998; Cancer, 80: 1141-1150, 1997)。
しかし、この程度の重篤な肺炎や発癌のリスクは、免疫抑制剤を使わないと 死亡してしまう患者ですので、許されるわけです。
この免疫抑制剤は、今申したように、リンパ球を著明に叩く力があります。
したがって、膠原病をおこしているような患者さん、重症のアトピーをおこしているような 患者さんは、T細胞やNK細胞と親戚のような類似のリンパ球が原因で 病気の発病の引き金になっているので、免疫抑制剤を使うと、T細胞や NK細胞を叩くだけでなく、膠原病、重症アトピーを引き起こしているリンパ球を叩いてくれます。
そこで、困った事に生命をとるSLE、生命をとらないリウマチにも盛んに使われ始めました。 アトピーの外用剤としてタクロリムス(プロトピック)が使用されるようになりました。
臓器移植の患者さんは放置しておくと3~6ヶ月で死亡してしまう患者さんです。 これには、肺炎になろうと、10%の発癌のリスクがあろうと免疫抑制剤を 使って臓器移植して延命することが正しい賢明な策です。
ただ、膠原病やアトピーに、この免疫抑制剤を安易に使用することには賛成出来ません。多くの場合、免疫抑制剤を使うくらいなら、まだステロイドの副作用の方がましです。 生命をとらないリウマチに使ったり、 生命をとらない何百万人のアトピー患者さんに対して発癌性のあるプロトピック軟膏を 外用させることは、とんでもないことなのです。