難病のアトピーで苦しんでおられる患者さんの多くは、大病院でいろいろと 食事を含めたアレルギー検査を受けておられるのが現実です。
しかし、13歳未満のアトピー性皮膚炎の患者さんでは、たしかに約30パーセント 前後の人が、食事によってアトピー性皮膚炎が悪化しますが、13歳を超えた 成人になると、そのパーセンテージはぐっと低くなり、ほとんど見られなくなります。 多く見積もっても、成人の場合、食事が原因で皮膚炎の悪化が認められる恩者さんは、2~3パーセントしかいない ということを、まずしっかりと認識して欲しいと思います。
最初に、13歳未満のアトピー性皮膚炎の患者さんの場合について述べてみます。 これらの患者さんに対して私は、約30パーセント食事アレルギーがあることを認め、 食事に気をつけるように指導しています。
しかし、血液などを含めたアレルゲンの検査はいたしません。大病院で行うアレルゲンの テストは、卵(卵白)、大豆、牛乳、米、小麦、それにダニ、ハウスダスト、ブタクサなどです。 私がテストをやらない理由は、医師になってすぐの時、 私の指導にあたった教官のアトピー(atopie)という言葉の語源 についての説明がきっかけでした。
その指導教官の説明は次のようなものでした。
「アトピーというのは元はラテン語だが、英語で言えば″odd(奇妙な)″という意味だ。 なぜこのような名前がついたかというと、試験管やいろいろなテストをやって、 原因が証明されたと思っても、実際に生体で試してみると、テストと 同じ結果が出ないことがかなり多く見られた。 その結果、″oddだなあ″ということで、この名前がついたんだよ。」
この話を開いて以来、私は、アトピー患者に好んでテストを行わない ことにしています(このことは、昔はよく言われていたのですが、 最近ではあまり言われなくなりました)。
今から30~40年前のこと、まだすぐれた抗生物質の製品がなかった頃は、 ペニシリンの注射がよく行われていました。抗生物質なので、 アレルギー・アナフィラキシー(anaphylaxis)がみられ、特にペニシリンアレルギーの 患者がショック死することがあり、ペニシリンの注射の前は必ずテスト(皮内反応)を 実施するように義務づけられていました。ところが、数多くの人の中には、ペニシリンのテストが 陰性でも、注射をするとショックを起こして死亡する例が時折ありました。 こういう患者には、ひどいアトピー体質が多くみられるのです。
このようにアトピー体質の人の場合、テストと実際の 生体反応が一致しない事例を昔からいやと いうほど見聞きしているので、oddであるこの病気に対しては、アレルゲンの 血液テストや皮内テストをやらないことにしています。
しかし、13歳未満の患者さんには、かなり食事アレルギーがあるので、私は 次のような食事アレルギーのチェック法を示して、患者さんの指導をしています。
食事アレルギーの原因として卵、大豆、牛乳、米、小麦、蕎麦などが 考えられているので、次のような忠告をします。
「卵なら卵(つまり、他の食事アレルギーの原因になると考えられる 5種類と同時に食べないで)を2、3週間食べさせてみなさい。それで、ますます かゆくなったら卵をやめさせてください。その結果、かゆみや皮疹が軽減、ないし 消えてなくなるようなら、卵を食べるのを本格的に中止しなさい」
食べてもアトピー性皮膚炎が悪化せず、止めてもアトピー性皮膚炎が 変化しなければ、食べてもよいのは当然のことです。
また、食事のアレルギーで留意すべきことは、1歳の時に卵がダメでも、4、5歳になると 卵アレルギーがなくなる患者が非常に多いということです。つまり、アトピー患者の 食事アレルギーは年齢とともに消えていくのです。事実、13歳を超えると食事アレルギーは ほとんど見られなくなります(参考までに、一般のアレルギーの場合、例えば、Aという洗剤に 一度感作されて洗剤アレルギーを起こすと、Aという洗剤の側に行っただけで 一生かゆみを感じるものです)。